シニフィエ・ノート© その2:メタ要素(読解力を科学する)

シニフィエ・ノート© その2:メタ要素(読解力を科学する)

シニフィエ(意味)の分解・再構成にはパターンがある_メタ要素の抽出

「読解力」とは、ことばの「意味(シニフィエ)」をスッキリとわかることであると前回述べた。すっきりとわかるには、形式論理的に漏れなくダブりなく分解・グルーピングする必要がある。ことばの「意味」の部分を直和分解・再構成すること。これを「抽象化」と呼ぶ。「抽象化」とは「取り出すこと」。無駄なところを「捨象(捨て去る)」して、重要な要素を抜き出すことである。目に見えるものではなく、目には見えない「意味」を抜き出すのである。

 

 

【抽象化_シニフィエの取り出し】

 

「シニフィエの直和分解・再構成」にはパターンがある。抽象化の型である。それをメタ要素と呼ぼう。基本パターンは多くない。よく使うものをフレームワークとして加えても、せいぜい20前後にまとめられる。社会科学の分析装置(モデル)などを加えると、その数は一気に増えるだろうが・・・(目的手段図式、敵-味方図式、YCI、2:8の原則、ロングテールなどなど・無常無我、縁起など)。しかし、私たち実際人が「仕事の現場で使える道具」として使いこなすには20くらいあればまずは十分であろう。この「道具」を何度も何度も使い込む。シニフィエノートを練習場として現場現実の課題を整理するためにどのパターン(メタ要素)が“はまり”がよいかを考える。まさに企画職・経営者の基礎練習である。複雑な現実を目の前にして、「何をすべきか」をスッキリわかる訓練を繰り返す。

パターンは、すなわち、①集合、②階層構造、③マトリクス、④+時間軸・手順を加えたもの、そして、使う場面・場所も決まりきった頻出の⑤フレームワークである。

 

「集合」がすべての基本_そこにプラスαを加える

①の「集合」がすべての基本になる。全体を部分に分ける、つまり、抽象(他は捨象)の結果、出てきたものを全体と部分にきれいに分けること。漏れなくダブりなく分解する。それが基本である。「要素に還元する」といい、要素還元主義の科学的思考そのものである。要素を静止画的に取り出すのである。その集合を基本に、若干の加工を加えて使いやすくしたのが②~④と考えればいい。静止画に何かを加えたものである。

②の階層構造は、直和分解の書き換えでしかない。しかし、頂点に置かれる「全体」が何に分解されているかが一目瞭然なので、課題を特定していくときや組織図などに多用される。

③のマトリクスは、縦軸と横軸という座標軸を使って分解したもの。座標軸そのものが抽象した要素である。大きいモノから小さいモノへ。そして、論理的に直行する(重ならない)2つの要素で座標軸を作るのがコツである。マトリクスの各象限は、さらにマトリクスに分解することが可能である。現場で動ける程度の粒度を見極める。

④の「+時間軸・手順」は、「発展・循環・連なり(プロセス)・ステップアップ・連続・成長・相互作用・スパイラルアップ」などがある。経験上、こんなもので十分だろう。

⑤の頻出フレームワークも多くはない。「会社の中と外・SWOT分析・3C・ツボ効率×リスト数(価値の創造₋伝達₋顧客)・市場規模と競争状況・商流・5フォース・」あとは財務分析に関わる定番の型である。

いくつかを詳しく紹介する。

 

①集合

まずは基本中の基本「直和分解」について。②の階層構造も直和分解そのものだが、私が最もわかりやすいと考えているのが下記の図である。変動損益計算書をモデル化する時によく使うものと一緒である。

 


【直和分解】

 

手順としては、まず「全体」を取る。それをすき間がないように切り分けていく。全体を半分に分けて、半分を半分に分けて、半分の半分を半分に分けて・・・、これを繰り返す。終わりはいつか、というと「現場で使いやすい程度に」である。わかりやすく粒度を決めればよい。これは頭の中だけでも操作できるくらい単純なので多用している。図ほど精密に作らなくても、使い勝手はよいと思う。外資系コンサルのボスコンが多用するMESE(ミーシーかミッシーと呼ぶようだ)と同じものである。私の方が不格好かもしれないが、効果は同じである。

しかし、この時、現場現実でもっとも難しいのが「全体」の範囲をどうとるか?である。これについては回を改めて(次回)詳しく書きたいのだが、ちょっと触りだけ。経験上は「問い」を自分に突きつけることだろう。すなわち、「それは何問題なのか?」にはじまり、「それは本当に問題なのか?」で締めくくられる5つの「問い」である。「今ココ」の「状況の意味付け」を的確に行うこと(淀みなく言語化すること)が基本である。近代社会におけるディレクター(先導者・参謀チーム)の最大求められる能力であろう。

 

②階層構造

階層構造は下図のようなもの。会社の組織図のことである。これそのものが、漏れなくダブりなくの直和分解になっている。集合のロジックと同じである。

 


【階層構造】

 

ただ、会社の組織図やシステム開発の現場の業務フロー図以外、あまり使ったことがない。シニフィエの要素分解に一般化して使うことはあまりないように思う。なぜなら、細かすぎるのである。よくよく練りこんだ施策を、最後に紙にまとめる際には重宝するが、頭を整理するためにシニフィエノートに向かっているときなどはあまり使えない。細かな部分に気を取られ、全体を見失う恐れの方が高いと思う。

 

③マトリクス


【マトリクス】

 

論理的に重ならない2つの要素を縦軸と横軸に置くところからスタートする。現実を目の前にして(同時に目的を考え)、一番大きな要素から使っていく。縦軸・横軸を複数使う場合もあるが、最初は出来るだけシンプルな方がいいだろう。例えば、市場を分析する際などは、縦軸に「価格帯」、横軸にその商品群の売りポイント(価格以外)を抜き出すことになる。ソファなら「何人掛けか?」「生地は何か?」「高さはどうか?」などである。

マトリクスはその応用範囲が最も広いと思う。経営以外の社会科学の分析にも多用されているので調べてみることをお勧めする。

マトリクスで難しいのは「縦軸と横軸」をどう置くか、である。論理的に重ならないように置けるか?である。何度も何度もトライしてみるしかない。論理的に重なる要素を軸とすると、マトリクス自体が無意味となるから要注意である。マトリクスは、あくまで、現実を分かりやすく切り分けるためにある。マトリクスのためのマトリクスにならないように気を付けたい。

 

④+時間・手順

①~③は基本、空間軸(静止画)を表現している。そこに「時間軸」を加えたものが④である。時間軸は、表現したいことによっていくつかのパターンがあるだろう。「発展」を示したい時や、「連なり・プロセス」を表現したい時、「循環」や「相互作用」を示すことも可能である。

 


【発展】


【連なり・プロセス】


【循環】


【相互作用】

 

「スパイラルアップ」という変わり種もこの範疇だろう。

横から見れば成長・発展に見え、上から見ると同じところをグルグル回っているように見えるアレである。斜めから見ると、同じところに何度も戻りながら次第に成長・発展しているという意味を表現できる。社会は基本、スパイラルアップと言ったのはヘーゲルらしいが、彼が使った弁証法は図にするとこのスパイラルアップになるのである。昔の手紙が今はメールとして発展して戻ってきた。オークションも今はネットである。ご近所のたわいない会話は今はSNSが代替えする。

 


【スパイラルアップ】

 

④の+時間軸はわかりやすい。なので初心者が安易に多用しがちである。シニフィエではなく、シニフィアンを発生順に並べることをもってシニフィエ・ノートだと勘違いする例を見たことがあるが、気を付けたいものである。実際の「世界」はシニフィエ90%、シニフィアン10%の割合で構成されている。シニフィエの絡み合い(力学)が世界を、そして、私たちの感情を、動かしているのである。分析対象はシニフィエ(意味)の方である。目に見えるシニフィアンでは断じてない!

ゆえに、①~③、特に「集合の概念」が使いこなせないうちに④から入ろうとするのはお勧めできない。これそのものが知的怠惰となりかねない。苦しくとも、①~③をまずは習得すべきである

 

⑤(+α)フレームワーク

領域を特定し、よく使うものを定式化したものがフレームワークである。「3C」や「バリューチェーン」などがビジネス上のフレームワークとして現場でかなり多用されている。知らないとマーケティング活動が困難というくらいに定着しているものである。

 


【3C】


【バリューチェーン(サプライチェーン)】

 

その他、管理会計で多用するフレームワークがなじみ深い(慣習的にはフレームワークとは呼ばないが)。「変動損益計算書」は、経営者が事業を設計するときに損益分岐点をすぐに知ることが出来るので重宝する。変動費と固定費に何を置くかが後々までその事業の成否を左右する。利益率を高めるために使う「5フォース」という定番もある。マイケルポーターがその著書『競争の戦略』で紹介した世界的にも有名なフレームワークである。取引に関わる力学を解き明かしてくれる。私も創業時かなりお世話になった。

 

 


【変動損益計算書】


【5フォース】

 

その他「SWOT分析」や「会社の中と外」「市場規模と競争状況」などおなじみのものが多いだろう。

 


【SWOT分析】


【会社の中と外】


【市場規模と競争状況】

最後に。抽象パターンをさらに抽象する_メタメタ要素

上記のメタ要素(パターン)たちはこれでおしまいではない。もう一段、さらに抽象化することが可能である。というより、もう一段抽象化しておいた方が実際の現場では迷わずに済むだろう。私たちが捉える世界は、なぜか無限マトリョーシカ構造になっているのである。

バートランド・ラッセルは、これを「論理の階梯(はしご)」と呼んだそうだ。人間が持つ文脈(認知・認識)は、重層構造をなしている。重層構造をなしているからこそ「わかる!」という現象が起こる。マトリョーシカを意識して目の前の仕事に望めたら、その生産性は一気に上がることだろう。「自分は今、世界のどの部分を考えているのか?」それそのものを知りながら、ある「部分」に思考・意識を集中させていること。そんな自分を相対化できる。

 


【意味のマトリョーシカ構造】

頭の中は見えないから

コミュニケーションの基本は「予期の予期」なのだそうだ。つまり、「私がこう思っているだろうとあなたが思っていることを私が予想する」そのことを基本になされるということだ。「あなたの私への予期」を私が予期することで初めて成立するということだ。ということは、人間の共通の認知型というものを深く知らなければコミュニケーションそのものが成り立たないということである。認知型を共有したもの同志しか分かり合えることはない、そう言い切れるのである。それが形式論理であり、論理の階梯である。そして、そのメタパターンを使いこなすことである。

 

残念ながら人の頭の中を見ることはできない。いくら頭蓋骨を割ってみたところで何もわからない。脳みその電気信号を解析してもその人のシニフィエは絶対にわからない。だからシニフィエノートを作るのである。そして、そのパターンを共有するのである。

それでも完全に認識が一致することはないだろう。他者との認識は絶対に一致しない。それでも人間は集団で仕事をする動物でもある。よりインパクトを大きくするために集団で狩りをすることを選んだのである。

 

そのコミュニケーションの基本を科学したかった。

どこまでわかりやすくできるかチャレンジしたかった。

どんな感想を持っただろうか。