「論理的に直行することは同時には考えられない」_科学的思考❺
「論理的に直行すること」は決して同時には考えられない
人間には同時に考えることができないこと、というのがある。一言で言うとそれは「論理的に直行すること」である。それを今回はじっくり掘り下げてみたい。
この『CEOの内省』で書かせてもらった「科学的思考」について考えた❶~❹において、その原理としてとても重要な概念として提出したのが「論理的に直行することは同時には考えられない」という定理である。私は数学をそこまで深く学んだものではないので、これが論理学上、本当に定理なのかどうか、正直わからない。しかし、そう考えると「現場の経営がうまくいく」という確信に近い感覚を抱くようになった。いわば、私の経営経験20年の勘である。しかし、科学的思考法を長らく訓練してきた者の「仮説」である。これから実証実験をして検証していかなければならない。
例として真っ先に思いつくことをいくつか挙げてみよう。
「だまし絵:老婆と美女」「目的合理と価値合理」「主観と客観」「数字と現場の活動」もっと平たい例を挙げれば、「会社に行こうと思う心と行きたくないと思う心」は論理的に直行する。すなわち、同時には処理できない。一度に結論を出そうとしても人間の脳みそはそれを決して受け付けない。それぞれにいったん集中して取り組まない限り、決して、きれいに結論を導くことは出来ない。
なぜ会社に行きたくないのか、それは①体調が優れないから、②昨日、嫌なことが会社であってそれを思い出したから、③今日も満員電車に揺られることを思うと憂鬱だから・・・、一方、会社に行きたいのはなぜか、それは①今日予定されている精読会が楽しみだから、②チームの仲間と顔を合わせるのが好きだから、③今日のランチが楽しみだから・・・。
こうして別々に、そして、要素還元的に考えていく作業を差し挟まないと、人間はそれに伴う感情すらうまく処理できない。でも、一度分けて考えれば次は同時に考えてみてもよく理解できるだろう。人間はことほどさように「論理的に直行すること」つまり、「同時には語れないこと」を同時に考えることは出来ないのである。
形式論理学はそういうものだから
どうして同時に考えられないのか。論理的に直行するとは何なのか。
論理的とは、もう少し正確に言うと「形式論理学・記号論理学」のことである。つまり、「AはBである」「AはBではない」「AはBであってBでない、ということはない」というように文章に表現できるかできないか、によって厳密に切り分けていくモノの見かた・考え方のことである。ギリシャのアリストテレスを濫觴として数学的に発展してきた思考手法らしい。。現代では「科学的思考」がそれにあたる。
「論理的に直行する」とは、「一つの命題に収まらない」「述語として表現できない」ということだろう。「AはBである」と「XはYである」を同時には考えられない理屈である。これが「論理的に直行する」というものの正体である。光を当てられるのはひとつ。現実世界で可能な「拡散する光」は使えない。それが形式論理の世界観である。
しかし、私たちのことばはそうやって出来上がっている。「AはBである」と言っているその最中に、「AはBではない」や「XはYである」が頭にあっても同時に表現することは不可能である。「AはBである」と「XはYである」を同時に言える人間はいないだろう。試しに口に出してみるといい「ホニャララはホニャララ」って感じにしかならない笑。
いったん「極端に振って考える」ことで頭はスッキリする
でも、現実の毎日の生活における私たちの頭の中は、この「ホニャララはホニャララ」状態であることがほとんどである。脳みそはホニャララ状態。それが人間のデフォルト。だから、感情もスッキリしない。
これを解消し(感情までスッキリし)、考えを確実に進めていく方法が要素還元主義(=科学的思考)なのだと思う。そして、その手段が「極端に振って考える」こと。あたかも考える対象を「遠心分離機」に放り込んで、その構成要素を絞り出すような感じである。そうして、それぞれを一つ一つゆっくり吟味する。あたかも一つの完成された料理に使われている原材料や調味料を一つ一つ取り出して、それらについて、深く深く考えてみるかのように。その出どころ・調達先、歴史、健康への効果効能、機能として似たものは他にあるか・・・といったように。どれが、どれくらいコストがかかっているか、同じ機能でもっと安いものはないのか・・・、こう考えると会社の仕事に近づいてくる。
分けて考えることが「科学的思考法」の基本
簡単にいうと「分けて考える」のである。でも、その分け方にちょっとしたコツがいる。目的を決して忘れない、ということ。分けやすいように分けても仕方ない。「そもそも何のために分けるんだっけ?」それを一時も忘れないようにメモっておくことである。目の前の壁に忘れないように貼っておく。それでも忘れてしまうのが人間だから、複数の目でチェックする。そう上司とのコミュニケーションはココこそがポイントである。
悶々とわからない中、うだうだしていても何も進まない。まずは、対象をバラバラに分けてみること。そして、目的を考え合わせて、そのうまい「分け方」を上司や同僚と議論してみることである。必ず、何かが変化する。突破口が見つかるはずである。
まとめ_それを知ることが仕事のコツでもある
人間には決して「同時には考えることが叶わない」、そういうものがあるのである。もしかしたら、私の能力が足りないせいでそう思い込んでいるのかもしれないが、少なくとも、そう思ったほうが仕事の現場ではうまくいきそうである。それは、論理的に直行する複数の物事を同時に考えられる「天才」などめったにいないからである。私は会ったことがない。やはり経営は、私のような凡人を基準に組み立てるに限る。
同時には考えられない、ということをサッサと自覚し、分けて考えることを選択してみる。それが要素還元主義であり「科学的思考法」の基本である。
「論理的に直行することは同時には考えられない」
スマートでシンプルないい言い方なので、記憶に残ってしまうだろう。
しかも、仕事の現場でかなり使えるモノの見かた・考え方である。