学習戦略_ダメな自分を変える方法
B29に竹槍で戦いを挑むような真似をしていないか
何かを達成しようと考えた時、また、何かの知識体系を身に着けたいと考えた時、時間が惜しいとばかりにいきなり手を付けてはいないか?その目的やゴールをイメージすることなく「とりあえずやってみよう!」「まずは始めること」と何の計画もなく本を端から読んだりはしていないか?それは、第2次世界大戦のときの日本人のごとく“竹槍で戦闘機に戦いを挑む”ようなものだということを知るべきである。
学習には戦略が必要である。それが自分自身のやる気を持続させるコツである。まずその全体像を描くこと。そして、どんな世界観を獲得しようと目論んでいるのか?その世界観を身に付けたらどんないいことがあるのか。それを明確にすることである。素手で巨大ゴリラに戦いを挑むような真似をしてはいけない。それは日本人的には美しいことかもしれないが、ただの愚か者である。結局はやる気が削がれ、学習の完遂はなされえない。もし、自分に学習戦略がないのだとしたら「自分は実は達成などしたくないのではないか」と問うべきだろう。人間は本気になれば戦略家になる。どうしても達成したいと思えば、無謀な戦いは挑まないものである。まずはそれを自覚することから。「B29に竹槍で挑む作法」まずはそれを戒める。
敵を知り己を知る
孫子の兵法を待つまでもなく、まずは「敵を知り己を知る」ことである。学習にとってもとても重要な作法である。対象を知るための努力の前に、戦い方を知るのである。勝つための手順を明確にする。
学習の場合の「敵を知り己を知る」とはどういうことか。それはひとことで言えば「何がわからないのか」をわかることである。「わからないことをわかる」ことといってもいい。そして、「それを知って何がしたいのか」「学習の先にどんないいことが自分にあるのか」「その知識体系はどんな世界観を表現しようとするものなのか」を明確にすることである。そこにじっくりと時間をかけることである。たっぷりと数週間をかけてもいいほどである。また、何度でもそこに立ち返り、確認する。それが失敗しないコツである。
わからないことがわからないと、その先、無駄な努力を積み重ねることになりかねない。いや、確実に無駄な努力を重ねることになる。そうすると自身のやる気は徐々に削がれ、結局、いつもの自分に戻ってしまう。「やっぱり自分はダメなんだ」と再び思うことになる。こうして、”人生は思い通りにならない”ことを再確認するはめになる。ダメな自分を自分で再生産してしまう。
戦略の作成に出費を惜しまない
具体的にはどうすればいいか。まず、戦略の作成に出費を惜しまないことである。関連する知識体系についての「学びかた本」のタイトルをアマゾンでじっくり検索する。そして、10タイトル以上を購入する。ここで出費を惜しんではいけない。合計3万円以上にはなるだろう。でも、出し惜しんではいけない。キンドルなどの電子書籍に逃げてもいけいない。図書館を活用してもいいが、冊数を減らしてはいけない。無駄なタイトルを買ってしまったという後悔よりも、また学習が達成できなかった、という後悔のほうがはるかにダメージは大きいのである。ここで費やす数万円などたいしたことはない。未来の自分の人生に対する投資である。絶対に投資を惜しまないことである。
最近はどんな学習に対してもいい本がたくさん出ている。英語だろうが財務だろうがマーケティング・イノベーションだろうがプログラミングだろうが何でもかんでも、おせっかいなひとがたくさんいる。ありがたいことである。たまにYouTubeを活用してもいいが「本10冊」は絶対に外せない。戦略の構築を無料で済ませようなどというせこい気持ちは厳禁である。なぜなら学習に対する自分の覚悟が固まらないからである。それでは戦う前から負けをみとめているようなものだ。試合前から負けることが確定してしまう。
戦略とはゴールまでの道順を作ること
ここでどうやって戦略を作るのか、そのスケッチをしてみたい。戦略とは何か?それは勝つというゴールまでの道順を作ることである。戦う前に“勝ち”を意識してしまう。大木を育てる前に、同じ型の苗木を作ってしまう、そういってもいい。手順はこうだ。
1.幹は何か?
2.枝は何か?
3.小さな細かな枝はどれくらい必要か?
4.葉をどうやって茂らせるか?
5.持続的に育てるためにはどうするか?
1番の「幹は何か?」とはどういうことか。少し難しい言い回しになるが、「その知識体系という運動体の循環スパイラルの骨格を取り出すこと」である。例えば財務。P/LやB/S、C/Sといった体系の細かな勘定科目やその構成に注目する前に、「それらはどんな世界を表現しようとしているのか」「どんな世界観を紙にコンパクトに表現しようとしているのか」を考えることである。財務の場合、3表を見て知りたいのは、会社という運動体の主活動と従活動を明確に“わかる”ということである。モノを扱っていれば「いくら仕入れて・いくら在庫して・いくら販売したのか」が「主活動」に他ならない。その日々の活動が、財務諸表にはどんなふうに表現されているのか?具体的には「買掛金・在庫・売掛金」そして、「売上・限界利益」である。その財務諸表における「幹を取り出す」のである。主活動はどう表現されているのか?そのそれぞれのことばの関係を図解したりして理解が明確になるまでウンウン唸って考える。
そして2番目「枝は何か」を考える。つまり「その主活動を支える従活動は何か」である。それは財務では販管費に表現される。販管費の優先順位をカタマリで取り出す。1番重要な従活動は何か?どのように主活動を支えているのか。その関係性を考えるのである。
あとは小さな問題となる。3番の「小さな枝はどれだけ必要か」は、どれだけ専門用語に馴染む必要があるのかと言い直してもいい。その世界観にどっぷりと浸かる心構えを作る。「葉をどうやって茂らせるのか」は、具体的な事例を指す。身近なモノから変形例まで、徐々に触れていく、そのことをイメージするのである。最後に「どう持続的に育てるのか」は、「どうやって無理なく生活に組み込むのか」である。新しい学びは、習慣にしてしまわなければ定着させることは難しい。一度、理解した知識も人間はすぐに忘れてしまう。だから、繰り返し、繰り返し、それに触れられるような習慣を作り上げることである。専用のノートを作る・机の前に理解のメモを貼る・毎日歯を磨くときの鏡に貼る・通勤途中に同じ本を何度でも読む・寝る前にも読む・朝起きたらまずは読む・・・など、それに触れる絶対量を増やす工夫をすること、そのことを指している。
脳は死ぬまで成長する(脳科学の成果)
持続させるコツは、あまり気合に頼ろうとしないことであろう。もちろん、気持ちは最大のエンジンになる。しかし、巨大なモチベーションをはなからそなえている人の方がむしろ少数派である。カギはモチベーションそのものを育てる方法論を知ることである。それが「学習戦略」である。
脳科学者の茂木健一郎さんが言っていた。人間の脳は死ぬまで成長することがわかっているのだと。特に学習を司る「前頭葉」という部位は、最後に発達するのだと。年齢を重ねると私たちのイメージとは反対に前頭葉の成長は加速するそうだ。それは、若いころより知恵を獲得しているからだろう。それを出来ないという思い込みに使うのではなく、出来るための方法論を構築するために使うということだろう。世にはびこる「嘘」に惑わされることなく、科学の成果を信じよう。いわく「年齢が行くと学ぶ力は徐々に衰退する」「年を取ると物忘れがひどくなる」「年齢が行くと考えが凝り固まって新しいことを拒否するようになる」・・・、全部、科学的には嘘である。
経営学の父ドラッカーの奥さんは、ドラッカーがなくなった後、87歳でベンチャー企業を起こしたそうだ。今回のアメリカ大統領の候補者の二人はともに75歳を超えている。エベレスト登頂を何度も成功させた三浦雄一郎さんは80歳を超えた今も世界の屋根への挑戦をやめようとしない。
年齢はただの言い訳である。学歴や出自を嘆くのもただの言い訳である。わたしたちは、出来ない理由を並べて努力しない自分を正当化するのではなく、出来る方法を真剣に考える時である。それが学習戦略であり、モチベーション・ビルディングである。チャレンジは人間が人間である基本である。自身を若く保つ秘訣である。
死ぬまで学びを止めてはいけない。それは近代社会における人間としての責任でもある。